トスカーナの北の端、山間の谷底にある村が今回の物語の舞台だ。
ポントレーモリとは“揺れる橋”という意味。
谷底を流れる二本の小さな川に挟まれた場所に旧市街はある。
古めかしい石造りの細い道が迷路のように入り組む町並み。
この村が栄えたのは中世の頃。ローマへと向かう交通の要所だった。
ここには古くからの伝統が息づいている。
この村の伝統とは、本。ここはイタリア中に本を広めた村だ。
13世紀頃、本好きの神父が住んでいたのがきっかけで、この村に本が集まるようになった。
そして、この辺りの農夫たちが、屋台に本を乗せてイタリア中を売り歩いたのだ。
*今、村にある本屋は一軒だけ。でも、営んでいるのは村の伝統を受け継ぐ夫婦だ。
古本屋のダニエラとジョン。ダニエラはミラノ生まれ、ジョンはイギリス人。
でも、二人のルーツはポントレーモリにある。
*そしてもう一人。靴屋のベネデット。実はこの村にはつい50年ほど前まで、
靴屋が50軒もあった。それも、この村が地域の中心地だったからだ。
その伝統を守り、ただ一軒の靴屋として今も靴を直し続けているのが、ベネデットだ。
*古い伝統は若者の中にも生きている。高校生のクリスティアン。
彼が今、夢中になっているのはイタリアの伝統的な旗ふり、バンディエラ。
シエナのパリオなどでも有名だ。自分も練習する傍ら、子供たちにも教え続けている。
中世の町並みを今も残す、歴史ある谷底の村・ポントレーモリ。
今回は、古い伝統を受け継いできた村人たちの物語をお届けします。