業界人に求められる資質のひとつに「早飯」というのがある。
一番下っ端のADなどは、周囲のスタッフ・出演者に食事が行き渡ってから食べ始め、その誰よりも早く食べ終えなければならない。しかしAD一年生の私は全くこれが出来なかった。どうやっても弁当の三分の二を捨てることになり、「このままではバチがあたって目がつぶれる」と思うようになった私は、結局その仕事では弁当を食べるのを止めてしまった。おかげで体重は10キロ痩せ、タバコで空腹を紛らわすのも覚えた。
二年生になると、比較的のんびりした仕事に異動になったのだが、相変わらずロケなどでは一番最後まで箸を使っているADだった。本来こういう時は、先輩方が食後の一服をされている間に、ADが会計するべきなのに、「そろそろ行きますか?」となっても食べ終わっていないのだからどうしようもない。もはや改善の余地がないと悟った先輩からは「とにかく君から食べて」と言われるようになった。
なぜこんなに食事に時間がかかるのか?食道が細いからか?箸の上下運動が緩慢なのか?それとも咀嚼のスピードが…まったくクリエイティブとは関係のないところで悩んでも仕方がない、と開き直って10余年が経った。
ちなみに現在のスピードは、私の親子丼を食べる時間=カメラマンがラーメンとカツカレーを平らげ食後の一服も終わったころ、みたいな具合である。しかし、ここ最近になって、どうも私のスピードは業界レベルではなく、一般レベルでも相当遅いということに気づかされた。 次回につづく・・・